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「海外からクルマを買う」ということ:Der FREIRAUM デアフライラウム “自由な余白” ♯19

輸入代理店選びは慎重に

横川謙司 フォルクスワーゲン・ゴルフ 2023.10.06

突然出現したGolf Caddyキャンピングカーのホンモノ……。そして自作キャンパーのベースにしようとしていた素のCaddy。結局、ドイツからコンテナで2台を輸入しました。2台のクルマそれぞれにストーリーがあり過ぎて、今後どう綴っていけばいいのやら、と思いますが、今回は「素人自動車趣味人が海外からクルマを買ってみた」ということについて書いてみようと思います。

日本への航海を待つ2台。

今回の個人輸入全体を通して分かったのは、登場人物が非常に多岐に渡る、ということです。日本国内の輸入代理店、現地の陸送業者、現地の輸出業者、コンテナ船の船会社、いわゆる“フォワーダー”と呼ばれる国際物流・通関業者、日本の税関、港の保管ヤード会社……ざっと挙げただけでも、これだけ分業している世界。

私のような個人の素人が関わるのは日本の輸入代理店になるので、ここがマズイと全てが不透明になります(おそらく連携もうまくいかない)。業者にとっては無数の貨物のうちの一つでしょうけれど、頼む方にとっては二度とない買い物なのです。個人輸入をされる方は、日本の代理店選びに時間をかけてください。

ざっくり段取りを要約すると、輸入代理店選定→海外での移送段取り→船に載せる時に船代支払い→輸入港で消費税支払(車両代+輸送費!)→コンテナヤードで受け取り→実動車なら仮ナンバーで移動(不動車はローダー手配)→工場等で国内基準に準拠させ(ここがものすごく大変です)→車検→ナンバー取得、のような流れになります。

ミニカーやらクルマの部品やらはしょっちゅう輸入していたのですが、原寸自動車の個人輸入というのは、自分にとっては大それた初体験です。世界には日本に輸入されていない車種や仕様など、魅力あふれるクルマたちがそれこそいくらでもあって、ひょい、と買えたらどんなに楽しいだろう、と思ってきましたが、実際やってみるととんでもない手間がかかることを実感しています。私は、2台とも中古車業者を通さない完全な個人売買でしたので、買う方も売る方も分からないことだらけ。それでも、欲しかった個体を日本まで持ってくることは叶いました。

完全個人輸入のプロセス

まず一番にやったことは「持ってきたはいいけど、国内で走れるのか?(ナンバー取れるのか)の確認」でした。
連載#6で触れた、神奈川県自動車会議所による「自動車なんでも相談所 2021」という催しが役立ちました。
そこで陸運局や税関での確認が必須だと聞き、資料を作って何度も通いました。ネット上に書かれていないことも全部直接聞けるのが良いですね。人によって多少言うことが違う時もありましたが……。

ほとんどの人には関係のない事例かと思いますが、私のように骨組み状態の車両を買った人間には、「バラバラ(部品の状態)で輸入したら自動車として登録出来ない」という重要な情報が得られたのは大きかったです。

続いて輸入代理店の選定です。コンテナ手配を頼むにあたり、クルマの個人輸入に門戸を開いている業者をwebで検索しました。過去実績や概算を載せているところがやはり選びやすく、良さそうなところにメールして決めました。(今思えば「輸入は簡単」「実績豊富」という記述をマトモに受け過ぎたなと思いますが、まぁ、その時は色々比較検討してそこでいい、と思ったんですね)。

検討し始めた時は1台の予定だったので、20フィートコンテナひとつ、オーストリアからどこかの港までは陸送で、日本は横浜港まで、で、幾らでしょう……というやり取りを開始しました。この頃は(2022 秋)世界の物流がまだコロナの影響下にあって、コンテナ代が平常時の何倍にもなっていて、オマケに円安も進行……すぐに実行に移すのは得策でない状況でした。

そうこうしているうちにキャンパーの出物があり、2台輸入の可能性が浮上したのです。ドイツ出張のついでにオーストリアに寄って、骨組みCaddyの様子を見に行った時でした。「Kenji、これを見ろ!」とヨーゼフが持ってきた新聞には"コンテナ料金暴落"(平常に戻る)の見出し。先週から1/8くらいに下がった、とその記事にはありました。

「なんと……これはいっぺんに2台送れということか?!」。キャンパーはドイツに残しておこうか、などと思ったりもしましたが、ハラは決まりました。輸送費の見積もりを取り直します。2台にしたところで2倍にはならないのですね。

しかし、輸送費は為替の影響を受けるので安心できません。見積もりは2022 秋、実行は2023 春、そして支払いは実行後とのことで、これはもはや"賭け"です。勝手なもので、そこからしばらく為替変動には超敏感になりました。車両代金の換金と合わせ、数円の違いが数十万円の差になるとあっては、慎重にならざるを得ません。

代理店選定後はスケジュールの調整です。輸出港はドイツ・ハンブルク港と決まりました。輸入実行は5ヶ月先、コンテナの予約がしたいのですが、業者は「ひと月前にならないと船もコンテナもスケジュールが決まらないので待つように」とのことで、しばらく待ちの時間がありました。その間に車両の状態やオーストリア〜ドイツ間の輸送方法、積み込み場所の現況などについて確認作業。港までの移送は、最後の最後まで2択から決まらず、ヤキモキしたところです。

方法1は「オーストリアで2台をコンテナに入れてそのまま船積み」。
方法2は「港までは積載車で運んで、港でコンテナ積み込み」。

前者の場合は、積み込み作業は自分が立ち会えますが、後者ではそれが出来ません。やりとりを重ね、最終的には方法1になったと連絡があり、私は友人と現地へ行くことにしました。コンテナへの積み込みは“バンニング”というのですが、これをすべて業者に任せるとそれなりのコストがかかるのと、キャンパーが特殊な構造なので、固定のロープ掛けを慎重にやりたかったからです。そのために固定ベルト(ラッシングベルト)と、転がり防止のクルマ止めも持参することにしました。

結局、後述のトラブルにより掛けてほしくなかった位置にロープが……。

やっぱりトラブル発生……

しかし、業者選定を間違ったかも……という気にさせられたのは、クルマの固定方法に関する質問をした時です。「私は車のバンニングに立ち会ったことがないのでよくわかりません」という回答。そして、渡航まで数日というところで、急にいろいろな問題が起きました。最大の問題は「ガソリンの入ったクルマは危険物なので、ハンブルクまでの輸送が出来ないかも。」と言われたのです。「え?クルマの輸出入業でそんな経験いくらでもあるのでは? なぜ今?」とびっくり。Caddyはタンクが完全に空っぽなので問題ないですが、キャンパーは自走でドイツからオーストリアまで移動するので、積み込み前にギリギリまで燃料を減らすしかないのでは? コンテナに積み込むのも、エンジンをかけるって言ってましたよね? メールの回答も遅く、埒が開きません。

仕方がないので、こちらでオーストリア国内の法規を調べたり、残存燃料の証明書を用意したり……。不安を抱えたまま渡航、そしてあろうことか、約束当日にコンテナ車が現れなかったのは連載#13に書いた通りです。この時も、オランダの輸送業者への催促を私がすることになったり、いよいよ輸入代理店が信じられない気分MAXに到達してしまいました。

右が博物館主のヨーゼフ。ひと月間、屋根付きガレージに匿ってくれて感謝。

残念ながら時間切れにて、自らバンニングすることは叶わず、しかも、2台を残して日本へ帰らなくてはならなくなりました。今回は、2台がヨーゼフの博物館にあったことで、何とか預かってもらえましたが、そうでなかったら一体どこに保管するハメになったのかと思うと、偶然とヨーゼフの気遣いに助けられた輸入だったと思います。

我々が徒労感とともに帰国した後、最初に代理店が用意した輸出業者は変更になりました。そしてそこからひと月後、2台はやっと港に向かいました。そんな様子なので、船に載せるまでもハラハラです。約束の日にヨーゼフのところに取りに行ってくれるのか、どうやって積み込むのか……。最終的には、コンテナ車ではなく、積載車がヨーゼフのもとへ行き、2台を港へ運んだ後にコンテナに格納する方法になりました。保管場所から積載車までの不動車の移動など、自分でやろうと思っていたことで、意図せずヨーゼフに苦労をかけてしまいました。

移送開始後、どこかの誰かがfacebookに投稿した目撃情報(笑)。オーストリア国内のガソリンスタンドのようだ。

そして2台は港へ。新たにアサインされた輸出入業者は日本の方がやっていて、積み込み前の写真を送ってくれるなど、やっと少し安心できましたし、「HAMBURG→YOKOHAMA」と書かれた予定表を目にした時はかなりの進展を実感しました(幸せレベル下がってる?)。

(左)ハンブルク港で。Caddyの荷室をフル活用。パーツがいろいろ詰め込まれている。(右)トラブルがあっただけに"YOKOHAMA"という文字に感動。自分がオーダーしたのだと言う実感が込み上げます。

そうしてようやく船積みされた2台は日本へ向かうことに。船名とコンテナ番号がわかれば、web 上でリアルタイムにトラッキングできる時代です。その後はXmasプレゼントを待つ子どものような心境で船の軌跡を追ったのでした。輸入した2台は、走り出すまでにはまだ当分時間がかかりますが、無事手元には来ました。

クルマの個人輸入、やるなら窓口の代理店選びを慎重に。

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