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100年目のアディショナル・インパクト……BMW R1300GS[ケニー佐川の今月の1台・第5回]

ケニー 佐川 BMW R1300GS 2024.02.15

記者、そしてMFJ公認インストラクターとしてライダーのスキルアップを手助けするなどマルチに活躍するモーターサイクルジャーナリスト・ケニー佐川氏が、毎月注目の一台を選ぶ本連載。

第6回は、ドイツの雄BMWからR1300GSを選んだ。GSは、アドベンチャー市場のキングである。デビューした2023年は、BMWのモーターサイクルが誕生してから100年目の節目であった。1世紀分の進化と深化を肌で感じ取る。

新型R1300GS。

ADV市場を築いたGSが完全刷新

それまでのバイクの常識を覆した歴史的なモデルのひとつが間違いなく「R1200GS」だ。2013年に刷新を受けたR1200GSは、大柄なオフローダーとしてはあり得ないほどのパワーとスピードを見せつけ、世界のあらゆるライダーにインパクトを与えて大ヒットした。それ以降、R1200GSをベンチマークとしたアドベンチャー(ADV)市場があっという間に、しかも世界的に構築さたことがつい先日のように感じる。

軍用車両のような存在感、悪路走破性、そして並のスポーツバイクを蹴散らすほどのスピードを身に付けて登場したR1200GS(2013年)。驚いた世界のバイクメーカーは追撃に一気に舵を切った。それはバイク業界の一大転換点となった。

そんなキング・オブ・ADVのGSの最新作「R1300GS」がリリースされ好調である。2023年末に国内でも発売開始となったが、待ちきれないユーザーから事前予約が殺到するなど人気ぶりがうかがえる。一体どんな世界を持つモデルに進化しているのか気になるファンも多いと思うが、昨年末にスペインで開催された国際メディア試乗会に参加できた。キングたる肌ざわりが確かにあった。

これだけの台数のR1300GSが走り回ればインパクトは絶大。

1世紀の歴史を持つ珠玉フラットツイン

BMWは今を時めくドイツの高級車ブランドだが、ブランド初のモーターサイクル「R32」が誕生したのは1923年のこと。水平対向2気筒エンジンとシャフトドライブを組み合わせた最初のモデルで、以後100年を経てもその基本構造は変わることなく今日のR1300GSにも受け継がれている。互いに拳を交えるようなピストンの動きからか「BOXER」とも呼ばれるフラットツインエンジンには、BMWの優れた設計思想と彼らが歩んできた歴史へのプライドが散りばめられているのだ。

単気筒・並列2気筒・直列4気筒と、BMWには多くのエンジンが存在するが、水平対抗2気筒の存在感とブランド力は圧倒的で、R1300GSのデザインのアイコンとなっていることは間違いない。

GSシリーズは近年世界的に人気が高まっている“アドベンチャー”を最初に定義づけた存在であり、長年にわたって同セグメントにおけるベンチマークとして君臨してきた。世界累計販売台数100万台、年間6万台の販売実績はBMWモトラッド(BMWの二輪部門)のラインナップの中でも随一である。

国内外の他のメーカーも今やアドベンチャーモデルをフラッグシップとして位置付けていることが多く、いわば群雄割拠のライバル達がGSの王座を虎視眈々と狙っている。そんな状況の中、R1200GSで敢行したエンジンの水冷化から10年ぶりとなる本当の意味での完全フルモデルチェンジを受けて、GSが果たしてどのような進化を遂げたのか、目の肥えたファン層を納得させられるだけの魅力があるのか……。自分の中でもスリリングな関心事だった。

100年後でも進化を止めないバイエルンの発動機

さて、ニューモデルの国際試乗会は年間を通じて温暖な気候の地中海沿岸で行われることが多く、今回もスペインのマラガで開催された。1日目はオンロードで、市街地や山道のワインディングロードや高速道路などさまざまなシチュエーションを走り回った。

ボディデザインはR1200GSよりもスッキリした。特徴的だったトラスフレームからダイキャストフレームを新採用した影響も多分にある。

新型GSはまず見た目が大きく変わった。ワイルドな無骨さは鳴りを潜め、より軽快でスマートなスタイルになった。BMW伝統の水平対向エンジンは完全水冷化とともに排気量は1300ccに拡大。シフトカム(可変バルブ)も改良され最高出力9psアップの145psへと向上。特に中速トルクが厚くなり加速も鋭く、それでいて回転はスムーズになっている。フラットな出力特性は継承しつつも従来型と比べるとアクセルレスポンスがより俊敏に、トルクの出方も強烈かつワイドバンドになっている。シフトカムも改良されてさらに高回転での伸びやかな加速を楽しめるようになった。

安全・快適性の上にスピードが成り立つ

車体も完全新設計となりフレーム剛性も最適化され、サスペンションもGS伝統のテレレバーとパラレバーが新設計となるなど大幅に進化。車重もトータルで12kg軽くなっている。乗り味としては、テレレバー独特の路面にタイヤが張り付くような接地感や狙ったラインをトレースしていく正確性はそのままに、ハンドリングは明らかに軽くなった。フロントからスパっと切り込んでいく様はまるで前後17インチのロードスポーツモデルのようだ。

大柄な車体で速いだけに、軽量化とハンドリング性の向上の影響は安全の観点でも大きい。6.5インチのフルカラーTFTディスプレイを標準装備。手元のスイッチで簡単に画面を切り替えられる。

また今回ブレーキも前後が互いに連動するフルインテグラルタイプとなり、レバー操作だけでリアブレーキの比率を最適化してくれるため、コーナリング中でも安心して速度コントロールが可能。さらにレーダーアシスタンスシステムが新たに搭載されたこともトピックスだ。前車との距離を自動的に最適化するACC(アクティブ・クルーズ・コントロール)や衝突低減ブレーキを含め、4輪で培ってきた安全装備がフル搭載されている。

また停止時に自動的にサスペンションを沈めてシート高を30mm下げる車高調整機能も初採用されるなど、安全性・快適性も大幅に高められた。もちろん、ライディングモードやコーナリング対応のABS&トラコンなど最新デバイスも万全、とまさに完璧なパッケージングで仕上げてきた。

BMWは電子の力を活用して安全・快適性の向上を試みる。「バイクに人が合わせる」という時代は過ぎた。

個人的にはシート前後の自由度が増えてよりダイナミックに動けることが嬉しい。シート高は標準で850 mmと従来と同等だが、車速が15km/h以下になると自動でサスペンションを沈めて30mmほど車高を下げてくれるシステムのおかげで足着きも断然ラクに。安心・安全かつ快適な走りを楽しめる。これはアドベンチャーに乗りたくてもシートの高さで断念していた多くの潜在層に朗報だろう。こうしたライダーに寄り添った進化も高評価につながっていると思う。

オン・オフ二刀流の完成形か

オンロードのスピードばかりがフィーチャーされがちのGSだが、実はオフロードこそ主戦場である。この見た目通り、オフ性能も世界最高レベルである。

2日目はオフロードで試乗。ブロックタイヤと20mm長い前後サスストロークを持つ「GSトロフィー」仕様に乗り換えてみた。まず驚いたのはオフでの扱いやすさ。瞬発力のあるエンジンのおかげで崖のようなヒルクライムも一気に駆け上がり、包容力のある車体は普段なら躊躇するようなガレ場も余裕で受け止めて突っ走ることができる。

GSのオーナーはぜひ一度オフロードに入ってほしい。最初は怖いが、次第に面白くなるはずだ。

特に印象的だったのがサスペンションで、EVOテレレバーは路面のあらゆる衝撃をハンドルに直接伝えることなく吸収してしまい、スイングアーム長を増したEVOパラレバーが路面を舐めるように追従してくれる。ちなみに軽量化と最適化された車体ディメンションのおかげで、後輪が滑ったときもコントロールしやすくなった。実際の車重以上に動的な軽さが際立っている印象で、今までのビッグアドベンチャーでは行けなかったような難しいセクションにも挑んでいける。そう思わせてくれるところが新型GSの凄さだと思う。

結論として、R1300GSは予想を上回る出来栄えだった。新設計フラットツインの力強い加速と滑らかな回転フィールや、純粋なロードスポーツモデルにも匹敵する軽快で安定感のあるコーナリング、エンデューロモデルを思わせる走破性能などどれをとっても秀逸。野球に例えるなら走・攻・守に優れたマルチプレーヤーのようだ。たぶん乗った誰もがそう感じると思う。300万円に迫るプライスはモーターサイクルとしてはけっして安くはないが、製品のバリューを考えたら納得するレベルではなかろうか。“キング・オブ・アドベンチャー”の称号はさらに輝きを増すことだろう。

ケニー佐川(佐川健太郎)
早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促・PR会社を経て独立。趣味で始めたロードレースを通じて2輪メディアの世界へ。雑誌編集者を経て現在はジャーナリストとして国内外でのニューモデル試乗記や時事問題などを二輪専門誌・WEBメディアへ寄稿する傍ら、各種ライディングスクールで講師を務めるなどセーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。元「Webikeバイクニュース」編集長。「Yahoo!ニュース」オーサー。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

[SPEC]
BMW・R 1300 GS
車両本体価格(消費税込):¥284万3,000円〜336万8,000円
車体サイズ:全長2,210×全幅1,000×全高1,375〜1,490mm
ホイールベース:1,520mm
シート高:820〜870mm
車両重量:237kg(装備重量)
エンジン:水平対向2気筒 DOHC 水冷 自然吸気 ガソリン
排気量:1,300cc
最高出力:107kW(145ps)/7,250rpm
最大トルク:149Nm/5,650rpm
変速機:6段 MT リターン式
タイヤサイズ(前):120/70R19
タイヤサイズ(後):170/60R17
(記事執筆時点におけるデータです)

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