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ドローンを知ると世界がわかる #01

J.ハイド 2022.04.28

ドローンを通じて写真家に

写真家、J.ハイドです。自分がプロのフォトグラファーを目指すきっかけは、2017年にドローンのライセンス取得した事にありました。その年は、中国のドローンおよび関連機器メーカーであるDJIの代表機種、白い「ファントム4Pro」が普及し、4Kカメラが空中をとび回ることが当たり前になったタイミングでした。全く違う思想の折りたたみ式「MAVIC」シリーズも誕生し、前年登場した上位機種の「インスパイア2」含め、様々な映像制作において市販の機体が4K動画を空撮し、世界に発信する時代に突入したのです。

さらにクルマ好きの皆さんならよくご存知の世界ラリー選手権(WRC)で、インスパイア2が撮影したダイナミックな走行映像が配信され、プロユースでも使用できる信頼性、機体性能を実証しました。それは世界中の映像クリエイターがドローン空撮に刮目したと言っても良い衝撃でした。

その後DJIはスウェーデンの伝統的高級カメラメーカー「ハッセルブラッド」を手中にし、搭載カメラに「ハッセルブラッド」のブランドネーム、そして画像プログラムを擁する事によって、圧倒的なポジションを得るに至ったのです。

photo: J.ハイド 最新型MAVIC 3のカメラは望遠レンズも備えた複眼式。ハッセルブラッドのロゴマークを冠している。

2021年秋にはMAVICシリーズの第3世代機、通称「Mavic 3」が、インスパイア2と同様のミラーレス1眼で使用されるマイクロフォーサーズ・センサーを持つカメラを搭載しました。飛行時間は46分(カタログ値)という従来の1.5倍に進化を遂げたのです。

DJIがMAVIC 3を発表した当日の朝、私はソニーのAir Peak S-1のテストフライトに臨んでいました。運動性は抜群ながら、カメラを搭載した際のフライト時間の物足りなさをソニーの開発スタッフに訴えていました。そして午後に帰宅してからMAVIC 3の圧倒的な飛行時間に絶句した事を覚えています。

実は、ドローンの技術、モーターとバッテリーのコントロール、センサー、プロポ送信機、そして1インチ・センサー搭載のカメラなどは全て2010年頃までは日本の独壇場でした。

このパルクフェルメの読者の多くはクルマ好きでしょうから、1980年代にタミヤ模型や京商が1/12の電動ラジコンカーを次々に発表した事を覚えているはず。エンジンカーに迫力は劣るものの十分なスピード感で、世界中で多くのファンを獲得していきました。

実は、現在の空撮ドローン技術の基礎はその時代にほぼ出揃っていました。そこから30年以上を経て、リチウムイオン以上に高出力のリポバッテリーや機体に装着されたモーター、そしてセンサー技術などを発展させたものに過ぎません。プロポ送信機に至っては、1980年代の飛行機やヘリ用のラジコン送信機が少しだけスイッチを変えたものにしか見えないはずです。

当時、日本からはラジコン飛行機競技の世界チャンピオンも数多く誕生しました。
しかし、残念な事に日本におけるラジコン飛行機のポジションは非常に低く、ある意味「高級玩具」の代名詞でした。古くは俳優の森繁久彌さんや国会議員の園田直さんなどが楽しまれていましたが、まれに起こる人身事故などを目の敵にする大人たちも少なくなく、今ひとつメジャーになれない存在であったことは否めません。

ラジコン飛行機を飛ばすにあたり、実際には、製図の知識、木工技術、塗装技術、電気・モーターの知識、内燃機関の知識、接着剤と溶剤の基礎知識、電波に関する知識、樹脂・金属に関する知識など、ほぼ全ての技術知識が必要になります。ちなみに自分はラジコン飛行機に詳しいおかげで、中学の技術家庭は全く無勉強でトップを維持していたように記憶しています。

当時からラジコン飛行機の製作や飛行には今のドローン以上に総合技術知識が必要なものでしたが、その教育的価値は全く理解されていなかったと思います。

また、日本はニコン、キヤノンなどの現在でも世界第一級のカメラ・メーカーを擁しています。東日本大震災時に空撮映像の重要性に気がついた2011年ごろから、日本がもし国家プロジェクトとして世界市場を視野にドローン開発を進めていれば、と悔やまれます。
きっと今頃、日本は世界に冠たるドローン大国として中国・DJIの独走を許していなかった事でしょう。

photo: J.ハイド MAVIC 3は旧モデルと比較してバッテリー容量を30%アップしつつ、機体重量は15g減少している。

ドローンを制するものは世界を制す

2022年4月、ウクライナにおける破壊された街並みを上空から捉えた動画が、毎日のようにテレビで放映されています。それらを撮影している機材はDJIのMAVICシリーズだと思われます。

一方でDJIはドローンによる人命救助を早くから主張し、MAVIC第2世代でも、赤外線カメラや拡声器を搭載できる災害救助に特化したエンタープライズモデルを発表していました。

そして2022年3月発表の最新型大型機「マトリス30」は、気温−20℃から50℃に対応、多少の雨天でも飛行を保障します。さらに自動開閉式の離発着ベースユニットや赤外線も含めた複数のカメラを搭載し、人命救助を最大の使命と訴求する骨太の設計思想です。

戦争と人命救助の最前線で、世界中でドローンが稼働しているのが現実なのに、日本ではまだ映像制作の空撮やインフラの点検現場ぐらいでしか需要が顕在化していません。
DJIの機体は2020年に官公庁から締め出されたと報道されています。同じ頃、アメリカ政府や軍が同社製品の採用を取りやめた事に歩調を合わせたとされていますが、その半年後にDJIはアメリカ国防省のテストをクリアしたという報道もあります。

つまり、米国は圧倒的なシェアと性能をもつDJI製品をなんとか排除したいが、一方でコストパフォーマンスに優れたDJIの機体以外では国防省も含めて役に立たないとなり、結果、使用を認めるという事が米国での現実なのだと思います。

DJIは公式ショップでの展示やパッケージ・デザインで、常にアップルを追いかけてブランドイメージを構築していると言われています。アップル・ウォッチはCMで、マトリス30はプロモーションビデオで、人名救助をその使命と掲げる中、日本のメーカーはそれに匹敵する骨太なビジョン、支える性能を生み出すことができるのでしょうか?

戦争でも、人命救助でも「ドローンを制するものは世界を制す」。

人類が憧れていた「空」をドローンが制するとすれば、そうなるのは必然でシンプルな「答え」だと思います。同時に、ドローンを知ると、様々な先進技術、スタートアップ企業の実情、国の規制や施策も見えてきます。

次回は、ドローンの普及に大いに貢献したのは日本のカメラ・メーカーだった事に
ついてレポートします。

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