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絶妙なレトロとモダンのミクスチャー

田中 誠司 トライアンフ・スピードトリプル1200RR 2022.05.01

スーパーバイクに匹敵する性能、異なる味付け

英国の古豪、トライアンフがなんとも魅力的なモーターサイクルを送り出してきた。現代のレーシング・シーンに由来する180psものハイパフォーマンス・エンジンに電脳化されたさまざまなデバイスを盛り込みながら、外観はカフェレーサーに由来するレトロでユニークなスタイリングをまとっているのだ。

トライアンフといえば、「ボンネビル」に代表される空冷エンジンのネイキッド・バイクというイメージが強いが、実はレースの世界選手権にエンジンをワンメイクで供給するサプライヤーとしても知られており、個々数年は上から2番めのクラスであるFIM Moto2の出場全チームに、レース専用チューンを施した765cc・3気筒エンジンを供給しているのだ。

Moto GP自体は当然、スピードを追究する競技でありそのレーシングマシーンは空力効果最優先のフルフェアリングに覆われている。トライアンフとしても、そうしたマシーンのレプリカを市販車として強調してもよさそうなものだが、現在は限定車として販売するだけでさほど熱を入れているようでもない。

photo: 田中誠司 モノトーンの車体に、金色に輝くオーリンズのフロントフォークがアクセントを与えている。

その代わり、Moto2用エンジンの130psをはるかに上回る180psの1160ccユニットを、まずはストリートファイター系ネイキッドである「スピードトリプル1200RS」に、そしてライダーの前傾姿勢を強めるセパレート・ハンドルにロケット・カウルを組み合わせた「スピードトリプル1200RR」に与えたのである。

そのパワーユニットは水冷並列3気筒DOHC12バルブ、1160ccの排気量から180ps(132.4 kW) /10,750rpm、125Nm/9,000rpmを発生する。BMW S 1000 RR、ヤマハYZF-R1など200ps級のスーパーバイクに最高出力では及ばないものの、最大トルクでは上回る水準である。

photo: 田中誠司 3 into 1のエグゾースト・システムが美しい。

強力なパワーユニットはアルミ合金製ツインスパーフレームに収められ、電子制御で常時減衰力を変化させるオーリンズ社製の前後サスペンションに、タイヤはフロント120、リア190幅のピレリ・ディアブロ・スーパーコルサという、スーパーバイクの定番タイヤを装着している。

photo: 田中誠司 ブラックアウトされた片持ち式スイングアーム、大型のラジエターや3 into 1のエグゾースト・パイプには、機能を磨き抜いた末の美しさが宿る。

異色の“マルチパーパス”・モーターサイクル

排気量1200ccと聞くと、エンジンの体積が大きく大柄なマシーンという印象を抱くかもしれない。しかし直列3気筒という比較的少数派のレイアウトを備えるこのエンジンはかなりコンパクトで、むしろ直4・1000ccのライバル車よりスリムに感じる。

実際、その車体にまたがってみると、シート高は830mmと低くはないのだが、バックステップがちょうどいい場所にあって足と干渉しないためもあり、地面を足裏で確実に捕まえられる。車体重量も200kgに収められているから、日常の取り回しはとてもやりやすい。

photo: 田中誠司 シングルシート・カウルで軽快感を醸しながら、デザイン上の処理で軽薄には感じさせないリアビュー。

エンジンに火を入れると、まったくブレずに安定したアイドリングから太いトルクを素直に発生して加速してくれる。クラッチが軽いこともあいまって、低速ではとても扱いやすい印象だ。一般路の交通の流れに任せて、ミドルバンドを使って走らせる限り、3気筒エンジンはただスロットル操作に従順で、そのサウンドからも特別な自己主張が感じられることはない。

しかしながら、いざ前方が開けて、タコメーターの表示が上を向く7000rpmを超えると、排気音が音圧を増すと同時に密に詰まった爆発力がトルクの本流としてライダーを圧倒する。重々しく押し切るような力で、1万1500rpmのレブリミットまでひたすら速度を積み増していくのだ。ギアレシオは高く設定され、計算上は2速で180km/hまで出てしまうから、とても公道上で使い切れるパフォーマンスではないとはいえ、トップエンド1万4000rpmを標榜する4気筒のスーパーバイクに比べれば欲求不満を感じずに済むかもしれない。

photo: 田中誠司 ライダーの眼前にはタコメーターとスピードメーターが備わり、トップブリッジ上のケーブルから電子制御サスペンションであることを意識させる。フェアリングは小さいながらも伏せた姿勢ならウィンドプロテクション性能を発揮する。

いわゆる本格派のスーパーバイクは、低いハンドル、高いシート、高出力エンジンからの熱風が厳しいケースが多いが、このスピードトリプルRRならツーリングに出かけてもそう不満は抱かないだろうな、とも思った。ギアリングは100km/h・6速時のエンジン回転数が4000rpmと、まずまずレスポンス・振動とも抑えめの領域で保てるし、胸に衝撃緩衝パッドを装着するライダーなら、伏せてロケットカウルの中に身を潜めるような姿勢を保てば風圧からの疲労を抑えられる。クルーズコントロール・システムも搭載されている。高速で渋滞、という最悪の状況でも、軽さと足つき性の良さ、熱風が直接ライダーに吹き付けられない構造ゆえ我慢できない状況には陥らないだろう。

目的地のワインディングロードでは、フレキシブルなエンジン特性を生かして、ゆったりと走らせるもいいし、ハードに攻め込んでみるのもいい。そのとき、ボタンひとつで減衰力を自在に変更できるオーリンズの電子制御サスペンションを活用して、柔らかめのタイヤに履き替えたようなソフトなフットワークか、あるいはレースシーンを思わせるハードコアなライディングを楽しむのもいい。

photo: 田中誠司 どんなシーンにも映えるバイクというのはなかなかない。

いわゆるマルチパーパス・モーターサイクルというと、車高高めのオフロードとオンロードの組み合わせがほとんどであるが、スピードトリプル1200RRはハイパフォーマンスなロードバイクと、ドレッシーに見せるためのファッショナブルなグランドツアラーの2面を楽しめる存在として、貴重な存在なのではないだろうか。

photo: 田中誠司 細部の至るところまで品質の高さ、洒落っ気が見て取れる。

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