PF DIARY

地上に降りたスピリット・オブ・エクスタシー:ロールス・ロイスの横浜新ショールームを訪ねて

田中誠司 ロールス・ロイス 2024.01.20

ロールス・ロイスが新しいショールーム、「ロールス・ロイス・モーター・カーズ横浜」を1月19日にオープン、報道陣に公開した。

日本国内では初めて、同ブランドの新しいヴィジュアル・アイデンティティ(VI)に基づいてデザインされたショールームは、はたしてどんな装いなのだろうか。

(上)テープカットに臨んだニコル・モーター・カーズ合同会社およびロールス・ロイス本社のエグゼクティブたち。(左)エントランスにはパンテオン・グリルを模した縦桟のファサードの上に、スピリット・オブ・エクスタシーが輝く。

「能ある鷹は爪を隠す」のいわれ通り、いざとなれば強力無比なパワーを放つ巨大なエンジンを音もなく震わせる。

後席のオーナーは6ライトのデイライト・オープニングの後方、Cピラーの影に潜み、姿を現すことはない。

威厳に満ちながらも、闇夜に紛れるように粛々と進むその姿は、一般の人々からはとても縁遠いように見え、その目的地もまたヴェールに包まれている。

ロールス・ロイスとはそんなクルマであるから、人を寄せ付けないような、閉ざされた漆黒の空間で商談が繰り広げられるものと、思い込んでいた。

(上)ニコル・モーター・カーズ合同会社のミヒャエル・ヴィット代表職務執行者 社長。(左)ロールス・ロイス初のピュアEVである「スペクター」が正面で来場者を出迎えた。(右)ロールス・ロイス・モーター・カーズのアイリーン・ニッケイン アジア太平洋リージョナル・ディレクターは、数年前までBMWジャパンでMINIのマーケティング・マネジャーを務めた。

ところが。新しいブランドVIに基づくロールス・ロイス・モーター・カーズ横浜は、みなとみらい地域の中でも最も日当たりがいいのではないか? と思うほど周囲が開けた敷地に設けられ、大きく開放的なガラス窓から陽光が燦々と降り注ぐ。

ガレリアと呼ばれる車両展示スペースは、天井も壁も真っ白で、フロアも明るいグレー。3台分のスペースのうち、中央に置かれた「ゴースト」の頭上には、球形のライトの数々が彩りと高さを自在に変化させていた。とてもポップで、アクセスしやすい印象だ。

「ガレリア」には3台のロールス・ロイスが展示可能。記念すべきこの日、世界62台限定車である「ブラック・バッジ・カリナン・ブルー・シャドー」が展示された。

「『近づきがたい』と思わせることこそは、ブランド価値の高さ・強さの証左である」

と、いまも多くのカーブランドが信じているとぼくは思っている。フロントグリルやバッジの肥大化、あるいは隈取りのようなライティング・デザインの強烈さが年々強まっていることに懸念をもつ人は少なくないはずだ。

ラグジュアリーという観点において他の追随を許さないロールス・ロイスが、ヴィジュアル・アイデンティティをよりクリアでオープンにしたことは、深い意味を持つ。

(上)顧客一人ひとりに合わせたカスタマイズを検討する「アトリエ」。実車のドアの横から取り出せる、あの傘の見本もあった。(左)顧客同士が気軽にコミュニケーションを楽しめることを掲げた「スピークイージー・バー」。

いつものように日本語だけでスピーチした、ニコル・モーター・カーズ合同会社のミヒャエル・ヴィット代表職務執行者 社長のことばが沁みた。

「私は、人生のすべてのものは繋がっていると信じています。このショールームを、遠く離れたロールス・ロイスの長閑なグッドウッドと、賑やかな横浜をつなぐ架け橋にしたいと考えています」

あれは8年前のこと。BMWグループの100周年記念だったと思うが、グッドウッドのロールス・ロイス本社と工場を訪問する機会があった。

メイン・ビルディングは決して華美ではなく、居並ぶ実車と比べれば質素にすら思えた。ゆったりした時間が流れるファクトリーでは、BMWグループの新技術を取り入れながらも、一台一台が着実に手作りされていた。

プロダクトのあり方、それらが生まれる場所のあり様に従うことが、顧客とのコミュニケーションにおいて求められている。それが現時点におけるロールス・ロイスの考えなのだろう。

2016年、英国グッドウッドのロールス・ロイス本社にて。

PICKUP