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電気走行でわかる「裸のワイルドさ」・ジープ「ラングラー アンリミテッド ルビコン4xe」をドライブする

田中誠司 ジープ ラングラー アンリミテッド ルビコン4xe 2023.10.09

「ジープ ラングラー」といえば、筆者の世代的には巨大な6気筒エンジンの太いトルクが自慢で、燃料代のことなど気にしないワイルドなオーナーでこそ所有できるもの、という印象がありました。けれども実は2018年にデビューした現行4世代目の「JL」型においては2リッター直4ターボ・モデルが復活しており、それがさらにプラグイン・ハイブリッド化されて、大排気量モデルにひけを取らないパワーも身に着けたとのこと。客人を乗せて箱根往復する機会が訪れたのを機に、この「古い革袋に注がれた新しい酒」を味わってみることにしました。

2014年のたった一時期だけ、フィアット・クライスラー・オートモビルズの社員だったぼくは、フィアットのマーケティングを担当していました。オンラインメディアの立ち上げやら、全国各地での展示イベント、映画キャンペーンやらTVコマーシャル制作やら、本当にいろんなことを手掛けさせてもらって、とても充実した8ヶ月だったことを覚えています。同じグループの中に、イタリア生まれのフィアットとは対照的なアメリカのジープもあって、そのマーケティング担当者は僕の隣に座っていました。

何年かあと、ぼくが移籍したBMWで、マーケティングのマネジャー・ポジションに空席ができたのを機会に、その隣人を誘ったことがあります。ところが彼は逡巡する素振りもみせず、「オレはATL(メディア・プロモーション)もBTL(イベント)も全部自分でやりたいし、なにしろジープが好きだから」と、にべもなく断られてしまったのはずいぶん昔の話です。そしてその彼はいまもジープのマーケティング担当として、ユニークな企画を続けており、最近、ぼくがトレイルランニングにハマって、初めて出る大会のスポンサーをジープが務める、ということもあって、最新のラングラーに乗ってみたいと思った次第です。

こだわりを持った人がブランドを育て、縁があってそこに興味を抱いた人が輪を広げていく、というのがマーケティングの面白さですね。

それはともかく、プラグイン・ハイブリッドになったラングラーは、四角四面の威容や、泥濘地用のマッドテレイン・タイヤはかつてのままに、充電用のウォールソケットにつながれて筆者を待っていました。

第一印象として、こんな小山のように大きな車を動かせるのかよという心配が先に立ちます。ステランティス日本法人の入っている建物の地下駐車場から出すにも、ちゃんとゲートをくれるのか心配になりました。

しかしいざ走り出せば、よじ登るような高さの運転席からは、ボンネットの峰が左右ともはっきり見え、四角くて、大きなドアミラーからも、左右のリアフェンダーが認識できるため、案外苦もなく運転できることに気がつきます。

ヒンジが露出したドアやテールゲートは無骨だが、これが一番効率的に剛性を確保できる手段なのだという。

四角四面は室内にも

ダッシュボードはまるで昔のラジカセのように屹立しています。はじめてこのインテリアを見る人には、昔からの伝統を守り抜いたこの形がとても新鮮に映るようです。

このクルマ、とにかく女子ウケがいい。フェラーリやらベンツやらは、「なんだかすごいらしいね高級車は」という人ごとっぽい反応なのですが、ラングラーは「存在は知ってたけどやっぱり楽しいのね!」という具合に、いきなり体温が上がる感じです。

機能的には、最近のSUVと同様の多彩な利便性を楽しむことができます。フロントとリアにはそれぞれカメラを装着、クルーズコントロールは前車追従機能付き、ハンドルやシートにはヒーターが備わり、ラゲッジルームのサブウーファーだけでなく、ルーフにもスピーカーが搭載されています。取り外し式のルーフにスピーカーかよ、と思うのですが、独特な空間にしっかりサウンドを行き渡らせるという配慮を感じるだけで、なんだかサウンドのクオリティなんてどうでもよくなってしまいます。

少し高めのドライビングポジションを選べば、ボディの先っぽまで見渡すことができる。前後フェンダーは突出しているのでひっかけないように注意が必要だが、慣れてしまえば運転しやすい形状だ。

「本格4WD+電気モーター」がもたらす独特なノイズ・エクスペリエンス

最新のラングラーは副変速機付きのパートタイム4WDで、前後のアクスルをそれぞれロックできる本格的なメカニズムを残しながら、プラグインハイブリッドシステムを取り入れています。今回は30kmほどエンジンを始動させずに走ることができました。電気のジープなんて昔は想像もできなかったけれども、走り出す感覚は独特で、発進時にはゴツゴツしたクロスカントリー車用のタイヤが転がりだす感覚を、タイヤのラグのひとつひとつが噛み込む感触から生々しく意識します。タイヤの回転数の周波数が高まるとともに、それがほどなくして消えていくのが面白いです。

試しにローレンジで走ってみると、ギア比はかなり低く、発進から高い回転数になるだけでなく、トルク変動に伴い前後の揺れも大きくなります。そのまま街中を走らせると軽トラックのようにエンジン回転の高さを意識しますが、それほどうるさくもありません。

快適性には、全く配慮のないようなこの車でありながら、実際にはエンジンの振動は巧妙に遮断されていて、よくも悪くも何気筒のどんなエンジンが入っているのかよく解りません。

モーターはトランスミッションとエンジンの間にあるので、4輪すべてがモーターのアシストを受けることができることが、違和感のない加速感につながっているようです。

最初、「どれだけ電気だけで走れるか」を試すことに真剣になり、バッテリーが満タンのうちにこのクルマの全開加速性能を試すことはしなかったのですが、エンジンとモーターを組み合わせたシステム最高出力および最大トルクは、380ps、637Nmにもおよぶのだそうです。しかも、見た目の巨大さに反して、車重は2350kgと、それほど重くはない。

ボンネットは猛烈に重い。けっこう遮音にも気を遣っているのだろうか。4xeには左ハンドルの設定しか存在しない。シフトセレクターよりも4WDのモード切り替えスイッチがドライバーに近く配置される。

乗り心地は想像よりも現代的

モーターの介入やシフトチェンジは非常に巧妙で、荒っぽさがまったくないことには驚きました。具体的にいえば、シフトショックなどは、私が普段の足にしているメルセデスEクラスの9段ATよりも少ない、と表現すればわかってもらえるでしょうか。

プラグインによる充電が切れてしまっても、依然このジープはハイブリッド車なので、発進のときにはモーターがエンジンをアシストしてくれます。それゆえ、小さなエンジンでも、むやみに回転数を高めることなく、快適に発進することが可能です。

一般道での乗り心地は、車の動きがロングホイールベースを反映してゆったりしているのでなかなか快適に感じます。ただし、大きなタイヤのゆれ動きはそれなりには伝わってくるのも事実です。

ルーフは着脱式であり、後席も前席も素材がむき出しのまま。金具で車体に固定されているだけだけれども、外の音の侵入はそれほど気になりません。

エンジン音のないモーターによる走行では、タイヤのラグのひとつひとつが路面とコンタクトする音が聞こえる。行進する兵隊の軍靴を想像してしまう。

操縦安定性は、巌のようにまっすぐ走るというわけにはいきませんが、スピードを出しすぎない限りはどっしり走ってくれます。高速道路ではエンジン回転数がかなり抑えられて省エネに努めているのがわかります。ボディのあちこちから多少ギシギシと軋み音が聞こえてくるものの、車体全体としてのガッシリ感は著しく、頼もしいです。

アダプティブ・クルーズ・コントロールも有用です。重心の高さゆえ、高速での安定性にやや不安のあるこの手の車だと、目的地に早く着くにはピンポイントで飛ばすより、できるだけ平均巡航速度を一定に保ちたい。そのためにはこういうデバイスを積極的に使ったほうが、時間効率の面でも燃費の面でも有効に働くでしょう。

トリップメーターによれば、都心から箱根まで可能な限りものしずかに往復したこの週末の走行距離は198.4km。このうち47.6kmは電気による走行で、残りの150.8kmの燃費は11.0km/lでした。これほどのスペースと本格的な悪路踏破性を備えるクルマとしては、期待以上と言っていいのではないでしょうか。

道なき道をゆく最強のクロスカントリー車としての個性が、サステイナビリティを意識した効率的なプラグイン・ハイブリッド・パワートレインだからこそさらに強調されるというのがラングラー アンリミテッド 4xeの面白さだと思いました。近代的な自動運転支援システムを加えた最新のラングラーは、ジープの伝統と美点をほぼそのままに、現代のどんなシーンでも活躍し、何も考えずに遠くまで行ける、究極のマルチパーパス・ヴィークルといえるでしょう。

ジープ ラングラーは1987年に登場。4ドア・バージョンは「アンリミテッド」と呼ばれ、泥濘地走行も可能なマッドテレイン・タイヤと専用設計のサスペンションを持つハードコア・モデルが「ルビコン」だ。

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