LONG-TERM TEST

日常で乗るマクラーレン #05:ラインオフ10年目、いよいよのトラブルと12ヶ月点検費用

マクラーレンMP4-12C 2013年式 購入:2017年5月 購入時走行距離 11,500 km 現在走行距離 28,048km 燃費7.3km/ℓ

橋本誠一 マクラーレンMP4-12C 2024.03.18

PFのアートディレクター兼代表が、自ら7年にわたり所有するマクラーレンについて語る連載。今回は12ヶ月点検の内容と気になるその費用について紹介する。

10年ひと昔、クルマの10歳は人間で言えば中年か?

日常の足として使っていたメルセデスCLSシューティングブレークを手放してしまい現在は無謀にもマクラーレン1台とYAMAHAのモーターサイクル2台で過ごしている。購入から7年目を経過し、そろそろかと心配していた矢先、やはり色々なマイナートラブルや不具合に気づき始めた。自分自身も中年というか初老の域に入りつつあるのだが、10年目の工業製品も一般的には若くは無いから相応の心構えは必要だ。

トラブルのひとつ目はワイパー。雨の日はあまり乗らなかったのでウォッシャー液の噴出パワーが落ちている事には気づかなかった。ワイパーの動き自体に問題はないのだが、ウォッシャー液の吐出量が少なく飛距離も出ない。液を補充してみると少し漏れているような気配があるので途中で慌ててストップ。もう一度動かしてみるがコンプレッサーと思われるモーターの音も若干おかしいような気がする。

ボンネットを開けての確認は可能。バッテリーやウォッシャータンクくらいまでは自分で目視出来る。

内外装の品質は意外にも優秀

内外装の劣化とダメージは殆ど無いに等しく、新車時の見た目を保っている。90年代の海外メーカー車などで良くあった、樹脂の加水分解によるベタベタや、樹脂コーティングの劣化なとが全く起こっていないのには感心する。そもそもMP4-12Cは触感の風合いや高級感などは狙っておらず全てが機能美の塊。耐久性や軽量化など、実質的かつ合理的な選択になっているのだろう。シートは合成繊維と本革の組み合わせ、ダッシュパネルはシボ付きの合成皮革だがヘタリも黒色の色褪せもなく、外装同様に美肌をキープしている。

とはいえ、外からは見えない電装系部品などの小さな樹脂パーツは、耐久性が良いとは言えないかもしれない。ある日突然ドアを閉めた時に「カラン!」という軽いが不穏な音が響いた。ドアの中からの音が示すように、内装材を留める部品が劣化により壊れて外れたようだ。ウインドーが上がらなくなると事実上乗れなくなるので、その辺りの可動部品ではなくて一安心。この辺のパーツは日本車が優秀すぎるのだろうが、海外メーカーのそれらはあまり信用できないという事も見聞きする。しかも割れた部品は単体での供給が無いという事なので、3Dプリンターで自作しようと考えている。

塗装面の劣化が少なく色褪せも認識できない。 内装の質感も良い状態。

肝心な「走り」に関して

エンジンを中心とした動力系にそれほど変化は感じない。とはいえ625PSの出力のうち数十馬力が下がったとて、気づかない可能性もあるのだけれど……体感的には吹け上がりと加速、トランスミッションのフィーリングも良好。摺動部分からののノイズは、流石に新車時とは違うと思うが、嫌な音は発していない。サスペンションも同様だ。

最も早く手を打たないといけない問題はタイヤで、製造から6年目が3本と1本は新品というバランスが悪い状態。3月上旬現在、外気温度が10度くらいの街乗りにおける、各タイヤでの温度差が8℃以上にもなっている。勿論、古いタイヤが温まらないという事だ。雨天時も不安が大きいから、早く交換しなくては……。

走行モード切り替えも全てスムーズに機能する。

12ヶ月点検の見積額は驚きの120万円……

いつもお世話になっているマクラーレン有明へ入庫。整備前に一通りのチェックをし、おおよそ想定される見積もりを出してもらう。マクラーレンに限らずこの手の海外メーカー、特にスポーツカーや高価格帯のクルマは、予備的な交換部品も多数含むので驚くような高額見積もりとなる事も多い。今回も予想はしていたものの、やはりかなりの金額となった。

エンジン関連ではホースからのオイルにじみがある為の部品交換と、ウォッシャー液タンクとポンプ、それと3本のタイヤ交換が金額の半分以上を占めており、120万円近い見積もりとなった。やれやれ。

どれも今すぐ手を打たないと走行に支障が出るものでは無いが、この手の車は自分で目視できる箇所が少ないところが歯痒い。エンジンは見えるが、上から眺めるだけでオイル量すらも確認できない。全てがマクラーレン純正の高価なテスターに繋げなければ確認出来ないから、オーナー自身が日常のメンテナンスをすることはほぼ不可能だ。

ウォッシャータンクを確認するが見た目は割れもなく、樹脂の硬化や黄ばみも少ない。

五感で感じる気配と顔色

キャブレター時代まで遡らないとしても、たとえば自分も所有していた空冷時代の911のオイル滲みなどは、目で見ればおおよそ緊急事態かそうで無いかは判別できたと思うし、これほど電子制御が介入していなかったから、コンディションの良し悪しも肌で感じることが出来たと思う。オイルとガソリンが燃えてギヤが回転する気配が感じ取れた、少しだけ前の時代が懐かしい。だから近年、旧車の価格が高騰しているのも頷ける気がする。

作業が完了し、結果的にはウォッシャーポンプと一部のクーラントホース交換、それと通常整備料金との合計で440,000円となった。当初1,200,000円の見積額から大幅に下がったのは、一部のメニューを見送ったためだが、少なくとも300,000円ほど要するタイヤ交換はすぐに必要になるだろう。次の車検時には今回見送った部分か、或いは別の箇所に問題が起こるかもしれないので心の準備をしておこう。

しかし7年間という長期間所有してのコストは、この手のスーパーカーとしては常識的な範疇なのかもしれない。突然走れなくなるような致命的なトラブルは起きていないし、いまだに街乗りでも神経質な素振りはなく、購入時のフィーリングとパフォーマンスをキープしている。というわけで、まだしばらくは他のクルマに目移りすることは無さそうだ。

次回はタイヤ交換を予定

タイヤは近々に交換を予定。承認タイヤのP-Zeroが第一選択肢なのだがミシュランに気持ちが傾いている。マクラーレンのサイズではまだ最新の「パイロットスポーツS5」がラインナップされていないので、「カップ2コネクト」か「パイロットスポーツ4S」が有力候補だが、海外のテスト評価でパイロットスポーツ4Sを圧倒的に上回っているコンチネンタル「スポーツ・コンタクト7」も気になっている。交換後には日常的な走行を中心に、一般ドライバー目線でユルくお届けしたいと思う。

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